Aセクとケーキの話

引用元:flickr

以前アセク・ノンセクに30の質問を書いたとき、質問事項の中にケーキに関する話があって、最初は「なんだこりゃ」と思ったのですが、調べてみたらAVENで生まれた独自のアイコンということでした。

AVENには様々なフォーラムがあるのですが、その中の「ウェルカム・ラウンジ」で、新しく入った人にケーキを振る舞う(画像を貼ったり、絵文字を書いたり)する文化があり、そこから徐々に、非公式ではありますがアセクシャルのモチーフとして使われるようになっていったようです。

AVENwikiに「AVENとケーキの童話」が載っています。可愛いお話だったので、自分なりに訳してみました。直訳するのが難しい部分もあり、また(英語力の問題で)誤訳が散見される可能性もありますがご了承ください。

AVENとケーキの童話

昔々あるところに、AVEN王が治める王国がありました。城壁はボロボロで、国王は深い悲しみに包まれていました。外からやってきた残酷なトロールたちにお城を攻撃されたばかりで、やっと再建中というありさまだったのです。

国に住む人々はみな、またトロールがやってくるのではないかと恐れていました。彼らは二度と邪悪な魂が入ってこられないようにと堅牢な城壁を築き国を守りましたが、それでも傷ついた心は癒えず、王国には恐怖の影が常につきまとっていました。

ある日、お城に不思議な少女が訪れました。彼女は黒いコートを纏い、フードを深々と被って顔を隠していました。時折覗く二つの黒々とした目は、とてもミステリアスで魅力的でした。城じゅうの人々が彼女を歓迎しました——たったひとりを除いては。

その村人は彼女を誤解していたのでした。彼は、少女がトロールの手の者であると喧伝して回りました。もちろん、誰も彼の言うことを信じませんでした。「バカ言ってないであの目を見てごらんよ! 彼女はあんなに愛らしいじゃないか」。彼らは口を揃えてそう言いました(ご存知でしょうが、「愛らしい」といっても、もちろん性的な意味ではありませんよ)。

町の人々に信じてもらえなかった彼はついに城まで出向き、王にその話をしました。彼は気が狂ったのだと思った王は、牢獄へ閉じ込めてしまいました。

それからしばらくして、人々は少女の部屋から奇妙な物音が聞こえてくるのに気がつきました。ぶつぶつと何かつぶやく声にも、それ以外の何かにも聞こえます。

何人かは少女を怪しみはじめ、あの男の言うことが正しかったのではないかと思うようになりました。そこで彼らは集まってお城を訪れ、王にその話を伝えました。王は、今度は一笑にふさず、きちんと調べてみると約束しました。

その夜、王はお忍びで散歩に出かけました。真っ暗な夜で、人々は皆家に帰り、色とりどりの動物たちが出てくる本を読んだり、世界というものがどれほど厄介で腹立たしいものか熱心に話し合ったりしていました。すると、その中にひとつ、不思議な光を発する窓があるではありませんか。

近づいてみると光は消えてしまい、かわりに妙な音が聞こえてきました。村人たちが言ったように、ぶつぶつと愚痴るような低い音です。話し声でしょうか。王は窓越しに部屋の中を見てみようとしましたが、中は真っ暗で何も見えませんでした。しかし、それでも音の正体はわかりました。

不思議な少女は、はじめから偽物だったのです。

王は、少女を追放することに決めました。

王は部屋の中に飛び込みました。しかし、そこはすでにもぬけの殻です。

あちこち探し回りましたが彼女の姿はなく、見つかったのは一通の手紙だけでした。

AVEN王と、王国の皆様へ

あなたがたの素敵なおもてなしに、まずはお礼を言わせてください。

あなたがたの中の誰かはきっと、私が妙なことをしていると思ったでしょう。しかし、私は決して、あなたがたが思っているような存在ではありません。

私は遠い国で生まれた、ただの村娘です。数年前、私は父を亡くし、そして国王に求婚されました。断ると、怒った王は私を国外へ追放してしまいました。私はとある村へ逃げ込み、そこで出会った魔女に、自分に魔法を教えてくれと乞いました。あの邪悪な王と戦う力が欲しかったのです。

王が私の妹と結婚したと聞いた時、私は、今こそ戦う時だといきり立ちました。ところが、恥ずかしながら私の魔法はまだまだ半人前だったのです。

私は王を、誤って小人へと変えてしまいました。王は烈火のごとく怒り狂い、必ず私を殺してやると言いました。私は彼の城から逃げ出し、安全な場所を求めてこの国へやってきたのです。

私はこの数週間、国に残してきた家族と魔法でやりとりしていました。その話し声はきっと、部屋の外にも漏れ聞こえていたでしょう。家族は私に、あの邪悪な王が死んだことを教えてくれました。

私はもう、大手を振って国へ帰れるのです。

あなたたたちの優しさには本当に感謝しています。もし世界中があなたがたのようだったなら、きっと、世界はもっと良い場所になるでしょうに。

感謝の印に、ひとつ置き土産を。私が魔女に教わった、魔法のケーキのレシピを残していくことにします。食べると、たちどころに歓迎の気持ちが伝わるケーキです。誰か、行くあてのない人がこの王国へ辿り着いたなら。その人を歓待する時に振る舞えば、きっと奇跡を起こしてくれます。

あなたがた皆が幸福であることを願って。

こうして、王国では旅人を歓迎する時にはケーキが振舞われるようになりました。

おしまい。

アセクシャルプライドとACEマークは広まりつつありますが、ケーキは初耳の方も多いのではないでしょうか。AVENに代わるようなSNSは日本にはありませんが、新しい友達にはケーキを贈るのもなかなか素敵だなあと思ったりした夜でした。

参考ページ(http://www.asexuality.org/wiki/index.php?title=Cake