セクシャルマイノリティは「トレンド」になり得るか

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以前とった「LGBT」に対するイメージのアンケート調査を元にレポートを書きました。アンケート結果を十分に活用できたとは言えないのですが、それでも参考にできたことは確かなので改めてお礼を述べておきます。

レポートの内容は以下にまるっと載せておきます。

未熟なレポートですが、少しでも「LGBT」という言葉について考えてもらうきっかけになれば幸いです。


2015年6月26日、アメリカ合衆国全域において同性婚が合法化され、日本国内では渋谷区がパートナーシップ条例(渋谷区男女平等及び多様性を尊重する社会を推進する条例)を制定するなど、2015年7月現在、社会は同性愛を容認する方向へ大きく舵をとっている。それに対応してにわかに国内マスメディアに登場するようになった「LGBT」という単語がある。セクシャルマイノリティの代名詞として使用されるこの言葉は、同性愛者をはじめとするセクシャルマイノリティが従来持っていたある種ネガティブなイメージを払拭し、ファッショナブルで進歩的なイメージを付与され、戦略的に使用されている。本稿では、最近発行された刊行物の中でそれがかなり顕著に見られる『FASHION NEWS 7月号増刊 WWD Japan 2015夏号』を中心に、インターネット上で実施したアンケート結果を交えながら「LGBT」という単語のトレンド性が持つ、メリットとデメリットについて論じたい。

はじめに、そもそも本当に「LGBT」という単語が当事者の中で受け入れられており、またマス・メディア等を通して世間に広まりつつあると言えるのか、ということを、アンケート調査の結果から確認しておく。
アンケートは2015年7月2日〜2015年7月5日にインターネット上の入力フォームを使って「現在の『LGBT』に対するイメージのアンケート」という題で実施した。本アンケートは「LGBT」という単語に関して、非当事者及び当事者、特にレズビアン・ゲイ・バイセクシャル・トランスジェンダーに含まれない者が抱くイメージや考えについて訊ねたものである。尚、字数制限の関係で、アンケートの設問・回答は適宜抜粋して掲載する。

回答を行ったのは全部で90人。回答者のうち81.2%が性的指向における少数者であり、更に55.7%が、ゲイ・レズビアン・トランスジェンダー以外の性的少数者だった(セクシャリティは複数回答可)。また、自らの性別に関しては、全体の31.4%がXジェンダーを含むトランスジェンダーであり、セクシャリティ、ジェンダー共にクエスチョニングも回答者の中に含まれていた。また、今回の調査はTwitterによる拡散を頼りに行ったため、セクシャリマイノリティ全体から見ると、セクシャリティの構成比率や年齢層には偏りが生じていることをあらかじめ断っておく。

まずは、そもそも「LGBT」という単語が日本ではいつ頃から使われるようになったのか、その指針として「『LGBT』という言葉を知ったのはいつですか?」という設問を用意した。回答として最も多かったのが「1年以上3年以内」と「3年以上5年以内」で、双方27%。これには恐らく、今回アンケートに回答した当事者の年齢層が若く、自らがセクシャルマイノリティである、という自認を得た時期が比較的最近である、ということが関係しているように思われる。次ぐ「『LGBT』という言葉は一般にどの程度認知されていると思いますか?」という設問に関しては約半数が「少しは認知されている」と回答した。一方「よく認知されている」は0%で、「あまり認知されていない」とする回答者も39.3%いた。

以上二つの設問から、「LGBT」という単語は「当事者間では数年以上前からそれなりの知名度をもって使われており」、当事者側から見て、「最近は非当事者にもそれなりに知られてきた」言葉であると言える。また、「『LGBT』という言葉・存在が世間に広まることについてどう思いますか?」という設問には、合わせて90%以上の回答者が「(どちらかというと)望ましい」と回答している。「LGBT」という単語が広まることは、多くの当事者に好意的に受け入れられていると見てよい。それでは、「LGBT」は、マス・メディアによってどのような形で広告されているのだろうか。ここから先は、その特徴的な例である『WWD』に、マス・メディアが形作るLGBTイメージを見ていく。

 まずはじめに、『WWD』が、本号の中で「LGBT」という単語を「ファッショニスタ(=流行の最先端に位置する人)」とほぼ同義として使っていることに言及しておきたい。目次には「LGBTが支持するデザイナーとブランド」「ALL ABOUT LGBT 知っておきたい注目のLGBTトピックス」「ファッショニスタが選ぶ! 最も影響力のあるパワーゲイ」といった見出しが並び、LGBTが流行を牽引する存在であることが繰り返し強調されている。『WWD』の母体である『Fashion News』はモード・ハイファッション系の雑誌なので、「ファッショニスタ」は、経済力と不可分の存在である。「LGBTに向けた珠玉の名言」内で、ある台詞について寄せられた「LGBTの人が持つ美意識の高さ、アンテナの敏感さ、高学歴・高収入を裏付ける発言だから。」(『WWD』 p.115)というコメントが、『WWD』内におけるLGBTイメージの全てを言い表していると言って良いだろう。高学歴でも高収入でもなく、ファッションにも興味がないLGBTの存在は、ここでは抹消されているのである。

 こうした偏ったLGBTイメージが発信されることの是非は一旦置いておくとしても、『WWD』におけるLGBTの取り扱われ方には明らかな問題点が、更にふたつほど存在する。ひとつはそもそも本誌内のどこにも「LGBT」という単語の解説が掲載されていないことだ。十分に「トレンド」ワードなので『WWD』読者層には改めて説明する必要はない、ということなのかもしれないが、ふたつめの問題点と合わせると、事態はやや複雑になる。

 それは「セクシャリティ」と「ジェンダー」の違いについてほとんど言及されていないどころか、誌面上でも所々混同されている、という点だ。『WWD』のサブタイトルは「モードは性別を超えるのか?」である。これは特集「2015-26年秋冬注目トレンドは『ノー・ジェンダー』」という項に対応していることからもわかるように、ジェンダーの問題を取り扱ったコピーである。にも関わらず、タイトルに「LGBT」を冠した特集に関しては、その内容はほとんど同性愛者・バイセクシャルによって占められている。セクシャリティとジェンダーがないまぜになって掲載されており、上述のように、「LGBT」という単語に関するきちんとした解説も載っていないため、おおよそLGBTについてこの雑誌から伝わってくるのは「何やら男女の枠を飛び越えたところにいるらしい、おしゃれで裕福な人たち」というイメージでしかない。

 また、そこをクリアできたとしても、今度は更に、そこからこぼれ落ちるセクシャルマイノリティが出てくる。「LGBT」の存在が広く知られるようになればなるほど、彼らの存在はマイノリティへと落ち込んでいってしまう。セクシャルマイノリティの代名詞として「LGBT」が広まっていくと、その四者の中に含まれていない人々は「存在しない」ことになりかねないからだ。

 しかし、この件に関して、一概に『WWD』を責めるわけにもいかない。なぜならそもそも「LGBT」という単語自体が、セクシャルマイノリティの総称として使うには非常に脆く、また誤解を生みやすい存在だからだ。
第一の問題は、『WWD』に見たように、セクシャリティとジェンダーの問題が並列で並んでいるところにある。LGBまでは性的指向を示す部分であるので、続くTもその一種であるかのように捉えられてしまい、ゲイとMtF、レズビアンとFtMの混同を引き起こしかねない。ひとくちにFtMやMtFと言っても、それぞれ異なるセクシャリティを持つ、というようなことが見過ごされがちになってしまう。

 ここで、先のアンケートに立ち戻ってみる。「『LGBT』という言葉に含まれていると思うひとたちを選んでください(複数回答可)」という設問では、レズビアン・ゲイ・バイセクシャルは100%の得票率だったものの、非当事者の中には「FtM、MtF」が含まれていることを知らない人が2%おり、それ以外のセクシャリティとなると当事者間でも意見が分かれている。また、筆者自身は「トランスジェンダー」にXジェンダーも含まれるものと考えていたが、実際にはXジェンダーがLGBTに含まれると考える人は24.7%しかいなかった。

 レズビアン・ゲイ・バイセクシャル・トランスジェンダー以外のセクシャリティで最も得票率が高かったのはパンセクシャルで18%、次いでAセクシャル・ノンセクシャルが15.4%と、ここでもかなりのばらつきが出ている。一方「セクシャルマイノリティ全てが含まれると思う」という回答は39.3%だった。寄せられたコメントの中には「当事者同士で使うときはセクシャルマイノリティ全般としての意味だが、非当事者が使うときはレズビアン・ゲイ・バイセクシャル・トランスジェンダーの四者の意味だと思う」というものもあった。いずれにせよ、「LGBT」という単語の使い方それ自体について当事者内部でも曖昧な部分があることは否定できない。

 だが、「LGBT」という単語の認知度が上がることによって救われる人々も、少なからず存在することは確かである。「LGBT」という単語は確かにわかりやすく、イメージも作りやすい。だが最終的には「LGBTの容認」ではなく「多様性の容認」へシフトしていく広告が最も望ましいのではないだろうか。言葉のイメージは、一度定着してしまえば拭いがたい。完全に言葉の意味が定着しきっていない今だからこそ、誤解や偏見の生まれない膾炙の方法を考える必要があるだろう。

参考文献
『FASHION NEWS 7月号増刊 WWD Japan 2015夏号』INFANSパブリケーションズ 2015